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痒疹
保険診療 /
~『痒疹』とリント布、ステロイド局所注射、妊娠中に伴いやすい皮膚疾患~
痒疹とは?
痒疹は、強いかゆみを伴う小さな赤いぶつぶつやしこりが皮膚に現れる皮膚疾患です。
かゆみが強く、つい掻いてしまうことで症状が悪化しやすく、長引くこともあります。
慢性的に繰り返す場合は「慢性痒疹」と呼ばれます。

(日本皮膚科学会 ホームページより)
痒疹の原因
痒疹の原因は一つではなく、複数の要因が関わります。
〇アトピー性皮膚炎や湿疹の悪化
〇虫刺され(ダニ・蚊など)
〇薬剤アレルギー
〇慢性的なかゆみによる掻き壊し
〇高齢者の皮膚乾燥(老人性皮膚そう痒症)
〇妊娠やホルモン変化による皮膚の反応
かゆみは神経や免疫の異常反応と関係しており、ストレスや生活習慣も悪化要因となります。
また、アレルギー反応が原因の場合は、空気清浄機や寝具の洗浄など、室内のダニ・ホコリ対策が必要な場合もあります。
痒疹の分類
●急性痒疹 acute prurigo
特徴
・虫刺されや急なアレルギー反応で発症する典型的な痒疹です。
・蕁麻疹のような赤みや膨らみが出た後に、水っぽい赤く盛り上がった皮疹が出ます。
・強いかゆみを伴います。
・夏に5歳くらいまでのお子さんによく見られます。
・多くは数日〜数週間で軽快します。
・原因を取り除けば再発しにくい皮疹です。
治療法
ステロイド外用薬+保湿剤の外用、抗ヒスタミン薬の内服
*掻いた後に二次感染を起こすことがありますので、早めの治療が望ましいです。
●慢性痒疹 chronic prurigo
~慢性痒疹は、結節性痒疹と多形慢性痒疹に分類されます。~
・結節性痒疹 prurigo nodularis
特徴
・初めは虫刺され様の皮疹ですが、強いかゆみで掻き壊しが続くと
皮膚が硬く大きく盛り上がる「結節」を呈します。
・数か月〜数年単位で慢性的に続きます。
・12歳以降の女性に出やすいとされます。
・アトピー性皮膚炎や老人性皮膚そう痒症に合併しやすいとされます。
治療法
・強めのステロイド外用薬+保湿剤の外用、抗ヒスタミン薬の内服
亜鉛華軟膏、リント布を用いた密閉療法や重層療法が有効です。
・原疾患のアトピー性皮膚炎に対するナローバンドUVB(光線療法)
・難治例ではステロイドの内服や免疫抑制剤であるシクロスポリン、
アトピー性皮膚炎の治療でも使用されるJAK阻害薬の内服、
生物学的製剤のデュピクセント®が保険適応です。
*リント布とは…
薬局で購入できるコットンでできた厚手の布です。片面が起毛しており、
その面を皮膚にあてます。薬剤を皮膚に塗った後の保護剤として使用したり、起毛面に
亜鉛華軟膏を塗ったものを皮膚にあてたりして使用します。
ひっかいて浸出液が続くような皮疹に有効です。ガーゼとは異なります。
保険適応外の治療としては局所注射(ステロイド局所注入)や液体窒素療法で結節の縮小を狙います。
*局所注射(ステロイド局所注入)については後述します。
・多形慢性痒疹 prurigo chronica multiformis
特徴
・丘疹・小結節・紅斑・局面など形の異なる皮疹が混在します。
・数か月〜数年単位で慢性的に続きます。
・小児や若年者でも発症しますが、特に高齢者の側腹部や腰、おしりに多く見られます。
・掻くことで新しい皮疹が出る「搔破サイクル」に陥りやすいです。
治療法
・強めのステロイド外用薬+保湿剤の外用、抗ヒスタミン薬の内服
・原疾患のアトピー性皮膚炎に対するナローバンドUVB(光線療法)
●色素性痒疹 prurigo pigmentosa
特徴
・かゆみの強い蕁麻疹に似た赤い皮疹が出現し、紅色丘疹となり、治癒後に茶色〜黒っぽい色素沈着が残ります。
・摩擦・紫外線で色が濃くなる傾向があります。
・若い女性の急激な体重減少や食事制限ダイエット後に発症しやすいとされ、
糖質制限・絶食・ケトーシス状態が誘因になることが多く、血中ケトン体上昇が関与すると
考えられています。糖尿病との関連も指摘されています。
・病理組織学的に好中球浸潤が強い炎症性皮疹として知られています。
・比較的まれな皮疹ですが、日本人にはみられることがあり、1971年に日本人の長島により
提唱された疾患概念です。
・見た目の問題で整容的な悩みにつながることがあります。
治療法
・急性期にはかゆみの治療が優先されますが、他の痒疹とは違い、外用ステロイドや
抗ヒスタミン薬の内服はあまり有効ではありません。
・ミノサイクリンというニキビの治療などで用いられるテトラサイクリン系の内服薬が
最も効果的です。ミノサイクリンの抗炎症作用と好中球の遊走阻害作用によります。
2週間くらいで奏功する場合もありますが、ミノサイクリンによる色素沈着や、頭痛・めまいなど
の副作用が出ることもありますので、長期内服には注意が必要です。
・保険適応外治療では、再発や難治例にDDS(ジアフェニルスルホン)の内服も効果があります。
好中球や好酸球の機能を抑制し、抗菌作用も有する薬です。
皮膚科では抗炎症作用に期待するところが大きいです。
薬疹や溶血性貧血、メトヘモグロビン血症、肝機能障害などをもたらす可能性もあります。
●妊娠性痒疹(Prurigo of pregnancy)
特徴
・妊娠中期〜後期に腹部や四肢伸側に強いかゆみを伴う硬くて盛り上がった皮疹が出現します。
(結節性痒疹に似ています。)
・初産よりも 2回目以降の妊娠で出やすい とされます。
・妊娠中のホルモン変化や免疫反応の影響が関与している可能性があります。
・アトピー素因がある方に出やすいとの報告があります。
・胎児への直接的な害はありません。
・出産後に軽快することが多いです。
治療法
ステロイド外用薬や保湿剤、抗ヒスタミン薬の内服(妊娠中に使用できるもの)
妊婦さんは特に胎児への影響の少ない治療が優先されます。
ステロイドの外用による胎児への影響はほとんどありません。
皮疹が出やすい部位の外用ステロイドの体内への移行率が非常に少ないからです。
一時的に塗り続けている部分が多毛傾向になったり、皮膚が薄くなったりすることは
ありますが、皮膚科で適切に管理します。安心してご使用ください。
保険適応外では液体窒素療法を行います。
痒疹の種類と特徴・治療法
病型 | 皮疹の特徴 | 好発部位 | 経過 | 主な治療 | 自費 補助療法 |
---|---|---|---|---|---|
急性痒疹 | 紅斑性丘疹、小水疱や痂皮あり | 四肢伸側 露出部 | 数日〜2週間で軽快 | ステロイド外用、抗ヒスタミン薬の内服 | 光線療法 |
慢性痒疹 (結節性痒疹) | 硬い結節、鱗屑・痂皮・色素沈着あり | 下腿前面、前腕伸側、臀部 | 数か月〜数年持続 | 強力〜最強群ステロイド外用、抗ヒスタミン薬、光線療法、免疫抑制薬 | ステロイド 局所注射 |
慢性痒疹 (多形 慢性痒疹) | 丘疹・結節・紅斑が混在 | 四肢伸側 | 数か月〜数年 持続 | 中〜強力群ステロイド外用、抗ヒスタミン薬、光線療法 | |
色素性痒疹 | 色素沈着を伴う丘疹または小結節 | 背部、四肢、腰回り | 慢性・再発性 | ミノサイクリンの内服、外用ステロイド、保湿、光線療法 | DDS(ジアフェニルスルホン)内服 |
妊娠性痒疹 | 紅色丘疹、小斑状紅斑 | 腹部、太もも、腕 | 妊娠中期〜後期に発症、分娩後に軽快 | ステロイド外用、妊娠中に使用できる抗ヒスタミン薬の内服、保湿 |
ステロイド局所注射とは?

強力な副腎皮質ステロイド(例:トリアムシノロンアセトニド=ケナコルトA®)を病変部に直接注射する治療です。
外用では十分に届かない深部や限局性の病変の中心部をターゲットとして、効果を発揮します。
内服や点滴などの全身投与よりも、副作用を局所に限定できるのがメリットです。
皮膚科での適応疾患
代表的に次のような病変に用います。
〇ケロイド・肥厚性瘢痕
→ コラーゲン過剰沈着を抑え、盛り上がり・赤み・かゆみを軽減させます。
〇円形脱毛症
→ 自己免疫反応を局所的に抑制し、毛包の炎症を鎮めて発毛を促します。
〇慢性の皮膚炎・局面(慢性湿疹や結節性痒疹、限局性の乾癬、掌蹠膿疱症などの強い局面)
→ 外用で難治な部分の炎症を鎮静化させる目的です。
〇良性の肉芽腫性病変など
→ サルコイドーシスを含む肉芽腫性病変に対して行います。
作用機序
ステロイドの基本作用は「強力な抗炎症作用+免疫抑制作用」です。
〇抗炎症作用… 炎症性サイトカイン(IL-1, IL-6, TNF-α)産生を抑制し、
プロスタグランジン・ロイコトリエンの生成を抑えます。
〇免疫抑制作用…Tリンパ球や好中球の浸潤を抑えます。
自己免疫反応を局所的に鎮めます。(例:円形脱毛症での毛包攻撃を抑制させます。)
〇抗線維化作用…ケロイドや肥厚性瘢痕の硬さ・盛り上がりを改善させます。
線維芽細胞(ケガをしたとき治そうとして集まってくる細胞)の増殖を抑え、
コラーゲン沈着を減少させます。
副作用・注意点
●皮膚萎縮・陥凹(ステロイドによるコラーゲン分解亢進):これは数か月かけて改善します。
●毛細血管拡張、色素沈着や色素脱失
●感染リスク増加(免疫抑制作用による)
●反復注射での皮膚菲薄化
→ このようなリスクを回避するため、適量・適切な間隔(通常は4〜6週おき)で行います。
妊娠中によくみられる皮膚トラブルについて
(Pregnancy-specific dermatoses)

妊娠中はホルモンバランスの変化や皮膚の伸びによって、さまざまな皮膚トラブルが起こりやすくなります。
「妊娠中のかゆみ」「妊娠中の湿疹・発疹」「妊娠中のぶつぶつ(赤い発疹)」は多くの妊婦さんが経験する症状です。
前述の妊娠性痒疹、PUPPP(妊娠性掻痒性蕁麻疹様丘疹)、妊娠性掻痒症、妊娠性疱疹など、
妊娠に伴って現れる皮膚疾患にはいくつかの種類があります。
ほとんどは産後に自然に改善しますが、中には強いかゆみが続き、まれに赤ちゃんへの影響が考えられる病気もあるため注意が必要です。
妊娠中の皮膚症状は専門医に相談を
「市販薬を使っていいの?」「赤ちゃんに影響はない?」と不安になる方も多いと思います。
当院では妊婦さんでも安全に使える外用薬や内服で治療を行います。
妊娠中のかゆみや皮疹でお困りの方は、ご相談ください。
妊娠に伴う皮膚疾患の種類と特徴
〇妊娠性痒疹(Prurigo of pregnancy)
前述の通り、発症時期は主に妊娠中期〜後期。特に経産婦(2回目以降の妊娠)に多いとされます。
〇PUPPP(妊娠性掻痒性蕁麻疹様丘疹)(Pruritic urticarial papules and plaques of pregnancy)
特徴:腹部の妊娠線周囲に非常に強いかゆみを伴う紅斑が多発します。
太ももや腕に広がることもあります。
発症時期:妊娠性痒疹とは異なり、初産婦に多く、妊娠後期に出やすい皮疹です。
経過:分娩後、数日〜数週間で自然に治まります。
治療:ステロイド外用薬、保湿、妊娠中でも安全な抗ヒスタミン薬の内服。
〇妊娠性掻痒症
特徴:目立った発疹はなく、皮膚の乾燥やごく軽い紅斑を伴ってかゆみが強いのが特徴です。
注意点:一部は「妊娠性肝内胆汁うっ滞症」と関連することがあり、血液検査で胆汁酸や肝機能のチェックが必要な場合があります。
経過:分娩とともに改善することが多いです。
治療:保湿、妊娠中でも安全な抗ヒスタミン薬の内服、内科と連携して治療します。
〇妊娠性疱疹(Herpes gestationis)
特徴:自己免疫が関与するまれな疾患です。お腹を中心に水疱ができ、強いかゆみを伴います。
注意点:胎児への影響(早産や低体重児リスク)が報告されているため、産婦人科との連携が必要です。
治療:中等度〜強力ステロイド外用、必要に応じてステロイド内服。
まとめ
妊娠中の皮膚疾患は、
●妊娠性痒疹・PUPPP → 赤い発疹+かゆみが主症状、産後自然に改善します。
●妊娠性掻痒症 → 皮疹は目立ちませんが強いかゆみが出ます。肝機能チェックが大事です。
●妊娠性疱疹 → まれな疾患ですが、赤ちゃんに影響する可能性あります。
という特徴があります。
「妊娠中のかゆみ」「妊娠中の湿疹・発疹」でお困りの方は、自己判断せず皮膚科にご相談ください。
妊婦さんでも安心して使えるお薬やスキンケア方法をご提案いたします。
監修医師
あおい皮フ科クリニック南阿佐ヶ谷駅前院 院長
つつみ みどり